正倉院展
華麗にして精緻な天平工芸の極み
「第73回 正倉院展」
10月になれば、いよいよ「正倉院展」シーズンの到来。令和3年の正倉院展も昨年に続きコロナ禍の影響により、開催の方法が通年とは異なります。ご注意いただく内容などをまとめましたので、お出かけの前にご確認ください。
令和3年(2021)の「正倉院展」について
2021年10月30日(土)から11月15日(月)までの17日間にわたり開催される、第73回目となる今年の正倉院展。楽器、調度品、染織品、仏具、文書・経巻など、正倉院宝物の全容をうかがえるような多彩なジャンルの、初出陳8点を含む55点の品々が出陳されます。今年も新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、観覧券は前売日時指定券のみで、当日券やオータムレイトチケットは販売しません。奈良国立博物館チケット売り場では購入ができませんので、ご注意ください。
世界に誇る「正倉院宝物」
シルクロードの終着点ともいわれる奈良。奈良時代にはすでに国際交流が盛んで、異国の文化や文物が遣唐使などによってたくさんもたらされました。その刺激を受けて高級素材を用い、技の限りをつくした異国情緒あふれる工芸品、調度品、仏具、楽器などが国内でも作られました。正倉院にはこれらのほか、戸籍などの文書類、経典、薬物など、膨大な点数の品々が収められ、整理された宝物だけでも9千件を超えています。
この宝物のはじまりとなったのは、天平勝宝8歳(てんぴょうしょうほうはっさい)(756)の聖武天皇の七七忌に、光明皇后が天皇の冥福を祈って大仏に献上した天皇ゆかりの品々です。その後、時を経て、宝庫は3つに仕切られ、北倉にはおもに聖武天皇のご愛用品、中倉には東大寺に献納された品々や文書、南倉には仏具や大仏開眼会(だいぶつかいげんえ)などの東大寺の儀式に関わる品々が納められました。1200年もの昔から大切に継承された宝物群は世界にも類がなく、まさに世界の至宝ともいえるのです。
そもそも正倉院って?
学校できっと一度は習う「正倉院」を、実際にご覧になったことはありますか? 正倉院は東大寺大仏殿の北西、約300mのところにあり、現在は宮内庁の機関である正倉院事務所が管理しています。国宝に指定されている「正倉院正倉」は南北約33m、高さ約14m、総ヒノキの高床式校倉造(あぜくらづくり)の倉庫で、8世紀中頃に建てられました。かつては「校倉造の木材が呼吸して通気性がよかったために宝物が守られた」という説が信じられていましたが、実際には、宝物は辛櫃(からびつ)と呼ばれる櫃に収められたために適度な温湿度調整がなされ、今に伝わったというのが正しいようです。現在宝物は、正倉に近い鉄筋コンクリートの東宝庫・西宝庫で管理されており、正倉には櫃などが納められています。正倉院宝物は通常非公開ですが、毎年10月から11月にかけて総点検が行われ、この時に宝物の一部が奈良国立博物館に貸し出されて、「正倉院展」として公開されます。
正倉院は1つだけじゃなかった?
現在の「正倉院」の本当の名前は「正倉院正倉」といいます。奈良~平安時代、日本各地の役所や大きなお寺には、大事なものを収める「正倉」と呼ばれる倉庫が置かれ、正倉がたくさん建ち並ぶ一画を「正倉院」と呼びました。つまり正倉院は、かつては一般名詞だったのです。しかし時代が下るにしたがって数が減り、最後にたった1棟、東大寺の「正倉院正倉」だけが残りました。そのため今では「正倉院」と言えば、かつて東大寺の正倉院正倉だった建物を指す固有名詞となっています。
★校倉造の「正倉院」も見に行こう!
正倉院は塀の外から見学できます。せっかくお出かけするなら、正倉院展と正倉院、両方を見てコンプリートするのはいかがでしょうか。
(申し込み手続き不要、見学無料)
公開日 |
正倉院展の会期中は毎日 |
---|---|
場所 |
東大寺大仏殿から北へ300m |
開館時間 |
正倉院展の会期中は10:00~16:00 |
今年絶対見ておきたい正倉院宝物セレクション!
高貴な素材を惜しげもなく使った聖武天皇の遺愛品
螺鈿紫檀阮咸(らでんしたんのげんかん)
北倉30、全長100.4㎝、胴径39.0㎝
北倉 螺鈿紫檀阮咸(背面)宮内庁正倉院事務所
中国で3~4世紀ごろに成立した、まるい胴部を持つ4弦の琵琶。胴部の全面を除き、材はシタンが用いられています。撥受(ばちう)けには3人の男女を描いたまるい皮が貼られ、胴部背面にはヤコウガイやタイマイ、琥碧などを象嵌(ぞうがん)した螺鈿細工で、家玉を連ねた綬帯(じゅたい)をくわえて飛ぶ2羽のインコを表わしています。こちらは奈良では25年ぶりの公開であり、天平文化の華やぎを今も鮮明にとどめた、正倉院宝物を代表するといっても過言ではない品です。
目にも鮮やかな極彩色の文様と優美な姿
漆金薄絵盤(うるしきんぱくえのばん)
南倉37、径55.6㎝、総高18.5㎝
南倉 漆金薄絵盤 宮内庁正倉院事務所
木製の岩座上面に8本の柄をもつ銅板を4層に重ねてくぎ打ちし、各柄の先端にクスノキ材製の蓮弁を鋲留めした、蓮華形の香炉台。中央には、上面が盆形の蓮肉(れんにく※)が置かれます。各蓮弁には、謹白や多彩な顔料を用いて、宝相華(ほうそうげ)や鴛鴦(おしどり)、獅子、迦陵頻伽(かりょうびんが)など種々の文様が華麗に描かれています。宝庫には、同形同大のものが別に1基伝わっており、いずれも岩座裏面に「香印坐」の墨書銘があることから、一対で仏前に供える香炉の台として用いられたと考えられています。
※漢方薬に用いる生薬の一つ
当初の形と光彩を現代に放つ世界的名器
白瑠璃高坏(はくるりのたかつき)
中倉76、径29.0㎝、高さ10.7cm、重量1231g
中倉 白瑠璃高坏 宮内庁正倉院事務所
黄色味を帯びた透明ガラスの高坏。飴状に溶かしたガラス胎を吹き竿で膨らませて、坏部と高台の原型を作り、その両者を接合後に加熱しながら口縁を切って、体部を引き延ばして成型したと考えられています。中近東ないしは地中海東岸(シリアやエジプトなど)で作られたローマンガラスもしくは初期イスラムガラスで、当初の形と光彩を今に伝える世界的な名器。本品は、今回同時出陳されている瑪瑙杯(めのうのつき)や水精玉(すいしょうのたま)などと一緒に、漆小櫃(うるしのこびつ)の中に収められ、天平勝宝4年(752)4月9日の大仏開眼会(だいぶつかいげんえ)に奉納されたことが知られています。
従来の技法とは違う文様染め技法で染められた絹織物
茶地花樹鳳凰文臈纈絁(ちゃじかじゅほうおうもんろうけちのあしぎぬ)
北倉182、縦42.5㎝
北倉 茶地花樹鳳凰文﨟纈絁 宮内庁正倉院事務所
今回が初出陳となる、赤みを帯びた茶色の地に、鳳凰や草木の文様を表した裂(きれ)の断片。正倉院に伝来した経緯や用途、制作地などは不詳ですが、文様の特徴などから8世紀ごろの作と考えられています。名称が示しているように、臈纈(蝋を防染剤として使う染色技法)の一種と考えられてきましたが、最近の調査で、正倉院の染織品としては従来知られていなかったアルカリ性物質を利用したまったく別の文様染め技法が使われていることが明らかになっています。
<第73回 正倉院展>DATA
会期 |
令和3年(2021)10月30日(土)~11月15日(月)※会期中無休 |
---|---|
会場 |
奈良国立博物館 東新館・西新館 |
開館時間 |
9:00~18:00 |
観覧料金 |
観覧には前売日時指定券の予約・発券が必要 |
前売日時指定券の発売日 |
9月25日(土)10:00~ |
販売場所・時間 |
ローソンチケット〔Lコード:57700〕ローソン及びミニストップ各店舗、電話受付(TEL:0570-000-028)、または公式サイト<https://l-tike.com/>) |
前売日時指定券のご注意 |
・開館時間から原則1時間ごとに約500名の枚数制限があります |
問合せ先 |
奈良国立博物館 TEL 050-5542-8600(ハローダイヤル) |
公式サイト |
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