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特集

伝統と誇りを未来に紡ぐ!「大安寺」の挑戦

掲載日:2022年12月9日

飛鳥時代に始まり、奈良時代は平城京の南を守護した大寺「大安寺(だいあんじ)」。「がん封じの祈祷寺」として全国に知られる名刹が今、新たな「寺」の道を切り拓こうとしています。今回は貫主の河野良文(りょうぶん)さんと、若き副住職の河野裕韶(ゆうしょう)さんに、素晴らしき大安寺の歴史、そして未来に向けた挑戦を伺いました。

目次

  1. 総合大学に迎賓館…! 奈良時代随一の大寺「大安寺」の栄枯盛衰
  2. クラファンによる最新CG技術で蘇った、南都大安寺天平伽藍
  3. 地元の方が誇れる寺に。伝統と誇りを次世代に繋ぐ

1.総合大学に迎賓館…! 奈良時代随一の大寺「大安寺」の栄枯盛衰

大安寺本堂(明治時代建立)

境内の竹林。大安寺は庭が美しく整備され、境内に佇むだけで心が穏やかになるのを感じる

奈良時代に天皇が守護した7つの大寺「南都七大寺(しちだいじ)」。大安寺は、その南東端に位置したことから「南大寺」とも呼ばれた古刹です。寺縁起によれば、聖徳太子建立の仏教道場「熊凝精舎(くまごりしょうじゃ。大和郡山市内にあったと伝わる)」が始まりで、時代により移転・改称を繰り返した後、平城京遷都をもって現在の場所に遷寺し、「大安寺」を称したと伝えられています。奈良時代から平安時代初期にかけての大安寺は、90余りの伽藍・東西2基の七重塔を備えた大寺院で、887名の学僧のための「総合大学」でもありました。学僧の中には弘法大師空海や伝教大師最澄、東大寺の大仏開眼供養の際に導師を務めたインド僧の菩提僊那(ぼだいせんな)といった、後世に名を遺す偉人たちが大勢いました。また大安寺は、菩提僊那のような渡来僧や諸外国の使節・文化人が逗留(とうりゅう)する「迎賓館」でもあり、当時、この辺り一帯は平城京屈指の国際的なエリアだったと推測されています。

奈良時代の大安寺。南大門・中門・金堂・講堂は南北に一直線に配され、
南大門の南に東西二基の七重塔が並んでいた(CG再現イメージ)

現在は草むらの中に巨大な心礎が残る、大安寺西塔跡(国史跡)

しかしながら時代が下るにつれ、大伽藍は戦火で焼失、寺域は最盛期の4%にまで縮小するなど、大安寺は次第に荒廃の一途をたどります。人々に忘れ去られ、荒れ寺も同然の大安寺の窮地を救ったのが、1940年に大安寺住職を拝命した前貫主の故・河野清晃(せいこう)師です。清晃師は寺の復興を志し、1956年に「大安寺文華会」を発足、復興活動をスタートさせました。今ある大安寺の年間行事のうち、「光仁会(こうにんえ) 癌封じ笹酒祭り」「節分祈祷会」「竹供養 癌封じ笹酒夏祭り」などの人気行事は師の発案によるもの。立て続けに行事を興したおかげで参拝者の足は途絶えることがなく、今日の復興をみるに至ったそうです。

「竹供養 癌封じ笹酒夏祭り」の様子

2.クラファンによる最新CG技術で蘇った、南都大安寺天平伽藍

平成期の第一次伽藍整備で、さらなる復興を遂げた大安寺。その時に建てられた馬頭観音像を祀るお堂「嘶堂(いななきどう)」には、2021年秋に大安寺主導で制作された、CG(コンピューターグラフィックス)作品が置かれています。

嘶堂に設置されたCGは、誰でも操作可能

「奈良文化財研究所」監修で制作されたCGには、美しく壮大な奈良時代の大安寺伽藍が精密に再現されています。手元のゲームコントローラーを操作すれば伽藍を色んな角度から見ることができ、またモニター越しに伽藍の中を散策したり、鳥のように空を飛び、上空から伽藍に近づいて見ることも可能です。この学術的にも素晴らしいCGを制作した理由を、発起人の副住職・河野裕韶さんはこう話します。「大安寺はかつて南都七大寺随一の規模を誇りましたが、今では逆に一番小さな寺になってしまいました。また、かつて大安寺が大寺だったということさえも、世間にはあまり知られておりません。どうにかして当時の大伽藍を伝えたいと考えていた矢先に『一般社団法人なら文化交流機構』様からCG化の話が舞い込みました」。折しもコロナ禍の始まりで参拝者が減っていた時で、できることは前向きに取り組みたいと考えた副住職。多額のCG制作資金を捻出するために彼が考えたのが、クラウドファンディング(以下、クラファン)に挑戦することでした。2021年秋、『南都大安寺天平伽藍CG復元プロジェクト』と銘打ち、南都七大寺で初のクラファンに挑戦したときは、「大安寺がクラファン!?」「CGを制作!?」と、世間の衝撃と注目を集めたそうです。

貫主の河野良文さん(左)と、副住職の河野裕韶さん(右)

「クラファンと申せば今どきの言葉に聞こえますが、いわば『勧進(かんじん※)』と同じなのです。インターネットにその窓口を置けば、今まで無縁であった人とも繋がれるのではと思いました」と話す貫主・河野良文さんの後押しを受け、いざ初めてみれば「とても大変だった」と副住職は苦笑しながら当時を振り返ります。「クラファンは、達成しない場合は全額返金がルール。でもその場合、ご支援者のご厚意や想いまでお返しすることになってしまう。無事に達成するまでは、夢でうなされることもありました」。結果的に約700名から支援を受け、応援メッセージもたくさん寄せられたそう。そのことには「本当に感謝しかございません」と、二人は口を揃えます。
「寺がクラファン」という物珍しさがメディアや人を惹きつけ、結果、多くの人が大安寺を知るきっかけになった今回の事例。さらに大安寺が目標金額を達成してからすぐ、同じ「南都七大寺」の法隆寺や西大寺もクラファンに挑戦しました。それについて副住職は「保守的な風潮のある奈良で、クラファンという新しい手法が取り入れられるようになった。その流れを私どもが作れたのはよかったと思います」と感慨深げな表情を浮かべます。

※勧進…寺社が社殿仏閣や仏像の建立・修繕などのために寄付を募ること。

晴雨兼用折りたたみ傘「大安寺傘(さん)」

クラファンの返礼品として、大安寺と大手通信販売会社の「フェリシモ」が共同で開発したのが、「大安寺傘(だいあんじさん)」です。奈良時代に存在した七重塔の屋根をモチーフにした品で、傘を広げると裏側に鮮やかで美しい塔の屋根裏組みが現れる、なんとも小洒落たデザインです。「復元CGを作る際、最も大変で最もこだわったのが七重塔だったので、返礼品に取り入れました」と副住職。奈良時代の建築資料はすべて焼失していたため、軒下組みといった細部の復元には非常に時間を要したのだそうです。返礼品の大安寺傘は、表側は普段使いのしやすいブラックトーンの仕上がり。傘を広げると塔の屋根の下で雨宿りしている感じになり、「とても素敵」と評判なのだとか。差すだけで、憂鬱雨の日もパッと気持ちが明るくなるようですね。
なお、この大安寺傘はオンラインでも購入できます。(★奈良専門オンラインショップ「ならわし」)

3.地元の方が誇れる寺に。伝統と誇りを次世代に繋ぐ

昭和の初め頃まで農村だった大安寺周辺は、古い民家がたくさん立ち並ぶ地域。そして「史跡」に指定された旧大安寺境内は、その家々を含む広範囲に及びます。史跡ゆえに再開発が不可能で、そのため、寺の存在が疎まれたこともあったそう。しかし昨今は子育て世帯を中心に、若い人が当地域に多く移り住み、町の雰囲気がどんどん変わっていっているのだとか。「大人だけでなく、この地域で育ち、次代を受け継ぐ子どもたちが大安寺の歴史や魅力を知ることは、郷土愛を育むきっかけになるはずです。大安寺は祈祷寺という立場ゆえ檀家がおりませんが、今後はさまざまな活動を通して、地域との関わり合いをもっと増やしていきたいと思っております」と貫主は語ります。

2022年6月には大安寺を筆頭に、6社寺が関わる「神仏酒合(しんぶつしゅごう)プロジェクト」を実施。コロナ禍で余ったお供えのお神酒をアルコール消毒液に変換するプロジェクトで、完成した消毒液は奈良市内の幼稚園や療育病院に寄付されました。このような活動は、奈良の寺社では今までになかった試みです。
また大安寺では、若者を始めとする幅広い世代に向けてSNSでの情報発信に努める一方、「歴史講座」や「国際縁日(※)」などのイベントを次々に開催。これらのイベントは大安寺のファンクラブ的な存在「Nara Stag Club(ナラスタッグクラブ。別名『大安寺を勝手に応援団』)」が主催するもので、「国際縁日」に至っては2022年度で第11回目を迎えました。こうした大安寺を側面的に支える団体に対して、貫主はこう評します。「講座を行う講師の選定や、外部団体との折衝といった多くの段取りは、我々だけでは到底できません。ましてや1度のみならず、何年も継続させるのはとても大変なこと。彼ら(Nara Stag Club)は見返りを一切求めず、ただ当寺を応援するために自主的に考え、色んなイベントを実行してくださる。本当にありがたいと思っております」。

※大安寺国際縁日…奈良県の大学や専門学校に在籍する各国の留学生が、大安寺にて民族音楽や舞踊を披露する国際色豊かな秋のイベント。奈良時代に大安寺や周辺エリアが持っていた国際的な賑わいを再現し、“昔と今を繋ぐ”ことをコンセプトとしている。

2022年11月3日に行われた「大安寺国際縁日」の様子(写真は市内の障がい者団体による和太鼓演奏)

前例や慣習にとらわれず、様々な工夫を凝らして、誰もが訪れやすい寺づくりを目指す。そこには、悩み苦しむ方に心から寄り添いたいというお二人の気持ちがあります。「寺は悩みや苦しみを抱えて生きる人々を支える場であり、それはいかなる時も揺らぐことはない」と諭す貫主。ただ、すべてが移ろい変わることは『諸行無常』と仏教でも説いている通り、「時代の変化に寺が合わせるのは必要なのでしょうね」とほほ笑む貫主に、副住職も強く頷きます。参拝者の中には、がん封じのご本尊に相対して座っているだけで、「生きる力をもらえた」という人も。悩める人にとっての癒しの場、プラスの方向につながる場としての寺を目指す。そんなお二人の想いが、新たな「寺」の道を切り拓くことにつながっています。

InstagramなどのSNSで拡散され、人気に火が付いた大安寺の「だるまみくじ」。
境内のあちこちに置かれた愛らしいだるまを見たさに、寺を訪れる人も多いのだとか

2023年1月には「東京国立博物館」での展覧会、そして同年4月に念願の宝物殿リニューアルオープンと、2つの公開が近づき、ますます話題を集める大安寺。「この流れに乗って、さらに新たな一歩を仕掛けていきたい」と意気込む副住職と、新しい挑戦を支えつつ、仏教の信念と伝統を守り継ぐ貫主。彼ら二人の取り組みは、きっと奈良の新たな寺を形作っていくことでしょう。

 

大安寺境内にある奈良時代の「中門跡」碑と、リニューアル工事中の宝物殿(後ろ)

大安寺

奈良市大安寺2-18-1
拝観時間9~17時(受付~16時)
境内無料
駐車場50台(無料)

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