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伝統工芸「奈良一刀彫」の魅力に迫る

手の中に乗せても余るほど小さく、愛らしい雛人形。人形だけでなく、五人囃子の鼓や笛、男雛・女雛の持つ杓や
扇、菱餅や桃・橘の木に至るまで、すべて木材を鑿(のみ)や彫刻刀で彫り出して作られており、美しい彩色が施されています。この人形は「奈良一刀彫(以下、一刀彫)」といい、長い年月の中で培われた、奈良を代表する伝統工芸品の一つです。今回は奈良の一刀彫の発祥と、伝統を受け継ぐ現代の職人に触れてみましょう。

気品高く、力強く。奈良の美しき工芸品「一刀彫」

【目次】

豪快な鑿跡と、繊細な彩色が見事に調和する木工芸術
発祥は平安時代、「春日若宮おん祭」に遡る
「なら工藝館」で奈良一刀彫をじっくり鑑賞(奈良市ならまちエリア)
一生ものの出会いを求めて。「株式会社誠美堂」(奈良市六条)

豪快な鑿跡と、繊細な彩色が見事に調和する木工芸術

誠美堂 三代目神泉作「兜」

そもそも「一刀彫」とは、荒彫りのまま簡単・素朴に像を刻む、木彫りの技法のことをいい、また、その技法で作られた彫刻物を指します。奈良の一刀彫のモチーフには「高砂」といった能狂言や「蘭陵王(らんりょうおう)」などの舞楽、鹿や十二支に題材を取ったもの、雛人形や五月人形、兜などの節句人形があります。一刀彫は「木地作り(※)、彫り、塗り」の3工程を経て完成します。「一刀」という名称から鑿一刀で彫り上げるイメージがありますが、実際は「彫り」の工程では10~30本もの多種多様な鑿・彫刻刀を部分によって使い分けているのだとか。髪や衣装の流れ、細かな筋や模様など、遠目には曲線のように思える部分は、よく見れば「彫り」でできた無数の「面」と「角」でできており、あえて鑿跡を残すことによって木のぬくもりや、鋭く美しい動きを表現する職人の技に思わず感服せざるを得ません。作品を彩る「塗り」は、胡粉などで下地を施した後に金箔や極彩色の岩絵具を用い、精緻に絵付けが施されます。その華麗な色彩は、伝統的な能の装束から影響を受けたもので、古都・奈良の雅な宮廷文化を思い起こさせてくれます。このように「彫りの大胆さと、塗りの繊細さ」という、相反する要素が一作品に見事に調和しているところが、一刀彫の一番の魅力であり特徴といえるでしょう。
※木地作り…ヒノキ・カツラ・クスノキなどの材木を1年乾燥させ、作品の大きさに切り出しておく工程

発祥は平安時代、「春日若宮おん祭」に遡る

春日大社の鳥居と、奈良一刀彫の起源とも伝わる人形が飾られた、田楽座の花笠。
春日若宮おん祭のお渡り式にて(写真提供:春日大社)

一刀彫の始まりは、奈良を代表する神社・春日大社(奈良市)の祭礼「春日若宮おん祭(以下、おん祭※1)」に起因し、その歴史は平安時代末期に遡ります。おん祭は“伝統芸能のオンパレード”ともいうべき日本最古の芸能の祭典で、多大な演目のうち五穀豊穣と平和を祈って行われる「田楽能」で一座の笛役が被る花笠や、「大宿所祭(おおしゅくしょさい)」で供えられる盃台(さかずきだい)に、一刀彫の起源とも伝わる、彩色された人形が用いられています。古来、人形は信仰的・呪術的な意味合いを持ち、おん祭の人形も春日大社の若宮様(神様)に捧げるものであるがゆえに、最小限の鑿しか入れないことで「清浄」を重んじた結果、簡潔な鑿跡の人形になり、その技法が今日にも伝えられています。元々神事用であった人形が鑑賞用へと変化を遂げた背景には、「春日有職(かすがゆうそく※2)」の岡野松壽(しょうじゅ)家(※3)や、“幕末の名工”とうたわれた森川杜園(とえん※
4)など彫師の存在が欠かせませんでした。また杜園が活躍した明治中期に、当時の春日大社宮司であった水谷川忠起 (みやがわただおき)によって「一刀彫」と呼び表されるようになったのだとか。長い歴史に裏打ちされた奈良の一刀彫。まさに伝統工芸と呼ぶにふさわしい逸品です。

※1 春日若宮おん祭…2023年で開催888回目を迎える、春日大社摂社・若宮の祭事。国指定重要無形民俗文化財。
※2 春日有職…春日大社が任命する職人。「有職故実(朝廷や武家における儀式や習慣)」を熟知し、社や調度品の御用に携わった。
※3 岡野松壽家…江戸~明治期の13代に渡り一刀彫の技法を伝承し、その名を襲名した、奈良の一刀彫の宗家的存在。
※4 森川杜園…幕末~明治前期の彫師・狂言師。古記・古物の模写を極め、それまで簡素にデフォルメされていた一刀彫の人形に写実性と動きを加え、芸術の域に高めた人物。

「なら工藝館」で奈良一刀彫をじっくり鑑賞(奈良市ならまちエリア)

さて次は、現代の一刀彫職人の作品と技に触れてみましょう! まず訪れたいのは、歴史的な町並みが残るならまちエリアの一角にある「なら工藝館」。館内には一刀彫をはじめ赤膚(あかはだ)焼や奈良団扇(うちわ)といった、奈良の伝統工芸士・作家による作品が70点以上展示されています。中でも一刀彫は、そのあでやかさでひときわ目を引く存在。写真の『春日龍神(前田浩幸氏作、非売品)』のほか、名だたる工芸士・作家による雛人形や能人形などが展示されており、その作風の違いをじっくりと鑑賞することができます。展示品は一部販売もされており、気に入ったものはそのまま買い求めることもできます。また、木地や岩絵具などの素材や、「彫り・下地塗り・彩色」といった一刀彫の制作工程の展示も必見。普段目にできない部分を目にすることで、一刀彫の魅力をより身近に感じることができます。

なら工藝館
詳細DATA

奈良市阿字万字町1番地の1
0742-27-0033
10:00~18:00(入館は~17:30)
入館無料
毎週月曜日 (その日が祝日の場合は開館)、祝日の翌日 (その日が土・日・祝日にあたるときを除く)、年末年始休み
※展示替えの期間など臨時休館あり
駐車場4台(うち1台は身障者等用)

交通
(公共交通関)

近鉄奈良駅から徒歩10分

一生ものの出会いを求めて。「株式会社誠美堂」(奈良市六条)

荒彫の作業の様子

塗りの作業の様子

「彫り」の作業は、「荒彫→中彫→仕上げ」の順序で進められていく。全工程に古来受け継がれてきた職人の技が光る。

続いてご紹介するのは、薬師寺唐招提寺の近くに店舗兼工房を構える「誠美堂」です。時節柄、桃の節句に向けた制作の真っ最中で、店内には干支人形や可愛らしい段飾り雛がずらりと並び、まさに圧巻。記事冒頭の段飾り雛も「誠美堂」の若手女性職人・三代目神泉(しんせん)さんによるもの。初代から受け継ぐデザインの気高さや、伝統的な形や色合いは大事にしつつも、すこし丸みを帯びた現代的な愛らしさを取り入れた作風が、彼女の段飾り雛の魅力です。「伝統は守りながら、時代のニーズを取り入れた新しい作品を生み出し続けたい」と神泉さん。
伝統工芸の世界にありがちな“一子相伝”や個人経営にこだわらず、彼女のように技術を学びたい若手にも門戸を広げ、株式会社として人材の育成に全力で取り組んでいる「誠美堂」。“お客さまが喜ぶ本当に良いものを丁寧に作り続ける”ことを心掛け、次世代に一刀彫の技と心を繋いでいます。伝統を守りながら、現代の暮らしにも馴染む形へと昇華された一刀彫の数々。きっと、一生ものの作品に出会えることでしょう。

上品さの中に可愛さを併せ持つ「帯留雛」17,600円(三代目神泉作)

株式会社誠美堂
詳細DATA

 

奈良市六条1丁目14-13
0742-43-4183
9:00~17:00
日曜・祝日休み(1・2月は無休)
駐車場3台(無料)

交通
(公共交通関)

近鉄西ノ京駅から徒歩5分

<参考ホームページ>
誠美堂 https://www.hina-ningyou.com/
なら工藝館 https://nara-kogeikan.city.nara.nara.jp
奈良県公式「奈良一刀彫」ページ https://www.pref.nara.jp/1398.htm
奈良市公式「奈良一刀彫」ページ https://www.city.nara.lg.jp/soshiki/109/4505.html

<参考文献>
なら工藝館パンフレット
「日本語大辞典」1989年発行、講談社

最後に

気高さの中に独特の愛嬌を持つ、奈良の一刀彫。あでやかな彩色を見れば心が躍り、角張りつつも柔らかな表情を醸し出す鑿跡を見れば、職人の技のすごさに思わず感動を覚えます。部屋にちょこんと置くだけで、その場の空気がふわりとやわらぐような感じがするのは、同じようでいて、何一つ同じではない、人の手で作られたものならではの“温かみ”があるからでしょうか。
今回ご紹介した「誠美堂」三代目神泉さんの作品は、奈良専門オンラインショップ「ならわし(https://narawashi.jp)」でもお買い求めいただけます。いつの世も、末永く大切にされる「一生もの」として、現代に受け継がれた一刀彫。ぜひ一度手にとって、作品に込められた職人の技や想い、そして奈良の歴史や物語に心を寄せてみては。またお子さまの初節句など、相手の幸せを願う心とともに一刀彫を贈るのも素敵ですね。

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